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Dissertation

Kurume Kasuri / 久留米絣

「絣(かすり)」とはその名の通り文様の形がかすれて見えることを特徴とする織物の技法で、あらかじめ糸を部分的に染色し、斑に染まった糸で織り上げることで模様を表すもの。

Category:Material
Date:2023.01.10
Tags: #kurumekasuri #ss22 #visvim #久留米絣
手織りの特徴はその「柔らかさ」。ほどよい力加減でゆっくり時間をかけて織り上げられた生地と、機械で強く打ち込まれて織り上げられた生地とでは着心地に大きな差が生まれる。
動画、写真:cubism

久留米で独自に生まれ、高度に発達した「括り」の絣。

「絣(かすり)」とはその名の通り文様の形がかすれて見えることを特徴とする織物の技法で、あらかじめ糸を部分的に染色し、斑に染まった糸で織り上げることで模様を表すもの。その技術は古代インドで生まれたとされ、東南アジアから中国、琉球を経由して日本へと伝えられたが、福岡県南部・筑後地方に伝わる綿織物「久留米絣」はそうした流れとは別に、独自に絣の技術が成立、発展してきたユニークな歴史を持っている。

写真:cubism

久留米絣の創始に深く寄与したのは、江戸時代後期の1800年頃、久留米藩(現在の福岡県)の米穀商の娘であった伝(後に結婚して井上伝)という当時13歳の少女だった。幼い頃から機織りをしていた伝は、着古した藍染の織物が色落ちし、白い斑点が浮かんでいるのを見て、糸を染め分けて柄を生み出す技法のヒントを得たという。試行錯誤を経て、白糸を括って(縛って)防染することで模様を作る技術を開発した。当時、普段着や作業着として使われていた藍染の綿織物は機能性が重視され、無地のものがほとんどだったが、伝の生み出した文様の織物は「御伝加寿利(おでんかすり)」と呼ばれて人気を集めたという。伝は82歳で亡くなるまで数百人におよぶ弟子をとり、生涯を機織りに費やした。

地色が白の絵柄の場合、柄部分だけを染めた糸を織り上げるのが一般的でこれを「白絣」という。星条旗柄も地色は白だがこれとは異なり、一度染めた糸の絵柄部分を残すように脱色し織り上げて表現している。地色ままの白と脱色後の白の色合わせが非常に難しい。
写真:cubism

藩が産業として奨励した久留米絣は、20世紀に入る頃には高級品として重宝され、最盛期には年間200300万反を生産したが、戦後は近代化とともに洋装化が進んだことから生産量が減少、現在では約7万反に留まっている。約1500軒あった織元も、今では二十数軒となった。とはいえ、かつて久留米絣とともに「日本の三大絣」と言われた広島・岡山の「備後絣」、愛媛の「伊予絣」の2つが今では産業として極小規模となっているのに比べれば、久留米絣は一定の量産体制が未だ確立されていると言える。

久留米絣の大きな特徴は、藍染に白く浮かび上がる柄を生み出す「括(くく)り」による糸の染色技法。糸の束を縛った上で染色すると、縛っていた部分が染まらず白いまま残る。この斑に染まった糸を経糸(たていと)・緯糸(よこいと)に使って織り上げる際に、糸が自然に乱れてずれることで、模様の輪郭に滲みが生じる。これが独特のかすれに見える柄となる。

糸束を縛る作業は「括り」と呼ばれ、これを手作業で行うことを「手括り」という。現在の産地では、手織りや手括りといった古来の製法で作家的な活動を行う織り手が存在する一方で、産業として100年近く行われてきたシャトル動力織機での織り、機械による括りも続けられている。

福岡県八女郡広川地区、〈visvim〉のさまざまなプロダクトを手掛けてきた久留米絣工房「冨久織物」は、手織りと機械織りの両方を手掛ける数少ない工房のひとつ。四代目の冨久洋さんは、織りから藍染までを自ら行う職人だ。工場には約100年前から使われている動織機がズラリと並んでおり、ガシャンガシャンと一定周期の稼働音を鳴り響かせている。冨久さんはこの音に耳を澄ませ、常に機械の様子をチェックしているのだという。

「その日の気温や湿度によっても機械の調子が左右されるんです。僕は子供の頃からこの音をずっと聞いて育ってきたので、感覚的にわかるんですね。昔、通っていた小学校の隣にも工場があって、町の至る所でいつもこの音が鳴っていました」

機械織りと言っても、経糸と緯糸の柄を合わせるのは容易ではない。織っていく内に進む柄のズレを、常に機械に手を加えて微調整していく。その意味で、あくまで「半動力」「半産業化」であり、どの過程にも職人の高い技術が要求される。

久留米絣の製造工程は非常に緻密であり、一枚の織物が完成するまで約30もの工程を経る。糸の伸縮率や絣糸の特性を考慮してデザインを決め、経糸と緯糸、地糸(じいと/単色の無地の糸)」と絣糸(かすりいと/染め分けられた複数色の糸)の配分を計算して記入した「下絵」を作成する。これも長い経験と知識が必要となる、実に複雑な作業である。

糸を数時間、湯に晒して不純物を落として糊付けし、麻紐で糸を縛る「括り」の工程へ。作業を行うマシンは、古くからの機械をコンピュータで制御できるよう職人が自ら改造したものだという。しかし、ここでも糸切れなどのトラブルに対処すべく、常に人がつきっきりで見ておく必要がある。

括りが済んだ糸は綛(かせ)状にし、藍染を行う。それぞれ濃度の異なる藍甕に、冨久さんが竹に通した綛糸を順に浸けては、力強く絞り上げる。絞ったらすぐ、糸に酸素を入れてほぐすため、地面に何度も叩きつける。水分を含んだ綛糸の重さは相当なもので、大変な重労働だ。

染めが終わると再び糊付けして、また一本一本の糸に解き、経糸・緯糸を巻く。これも模様がずれないよう、細かな注意が必要となる。こうしてようやく織りの作業へと移ることができる。

0122105011019 FREE EDGE SHIRT S/S KASURI
0123105011015 CABAN SHIRT S/S KASURI (N.D.),0323105017004 PATTIE ONE PIECE KASURI (N.D.)とも2023年4月発売予定。シャツは限定生産品のため店頭販売はありません。

「絣の柄が持つ滲みやズレは不均一で有機的な味わいがあるし、国や地域によって異なる絣の文化や歴史もとても興味深い。長い時間の中で進化しながら、これだけの高度な技法が育まれてきたことがすごいと思います」と中村ヒロキは久留米絣の魅力を語る。

「伝統的な技術を活かしながら、綿素材にリネンを混ぜてドライで張りのあるタッチを加えてみたり、現代的な商品として新たなプロダクトを生み出していきたい。そして、土地に根付いた織物の文化が一日でも長く続いてほしいと願っています」

冨久さんもまた「職人として、これまでやったことのないものに取り組むのが面白い」と協働を楽しんでいると言う。常に手を動かし、蓄えられた知識と技術を生かすことで、歴史ある文化に今も少しずつ更新が加えられている。

: 井出幸亮

写真、動画: 深水敬介

動画編集: cubism

2023.1.10 Republished with revisions

2022.5.24 Original work published