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VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY

2022年7月、東京・中目黒にオープンしたvisvimの新店舗「VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY」は、庭に限らず、錫(すず)の什器や型摺り染めの襖など長い歴史の中で培われてきた職人の「技」が随所に取り入れられています。デザインは「WMV VISVIM TOKYO」に続き中村ヒロキが担当しました。visvimの「モノ作り」にも通じる職人の「手仕事」に触れ、その奥深い魅力を体感してください。

Category:Shops
Date:2022.10.25
Tags: #contrarydept #indigocampingtrailer #littlecloudcoffee #peerless #subsequence #visvim #visvimgeneralstore #wmv #中目黒
安諸定男氏によるVISVIM GENERAL STOREの庭。Photo: Takeshi Abe

「手仕事」に触れ「モノ作り」の本質について考える場所。

2022年7月、東京・中目黒にオープンしたvisvimの新店舗「VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY」は、庭に限らず、錫(すず)の什器や型摺り染めの襖など長い歴史の中で培われてきた職人の「技」が随所に取り入れられています。デザインは「WMV VISVIM TOKYO」に続き中村ヒロキが担当しました。visvimの「モノ作り」にも通じる職人の「手仕事」に触れ、その奥深い魅力を体感してください。

中村が描いた「VISVIM GENERAL STORE」の門のデザイン画。

安諸親方の「庭」

もう10年以上前。いまの東京の家に住み始めたばかりの頃、最初は庭の存在をそれほど意識することがなかった。いま思えば、それは、人が作ったものでありながら、あまりに自然で、押しつけてくるような主張がなく気にとまらなかったから。

 

ある時、庭を眺めながらそのことのすごさに気づく。石垣、土壁、柱、門、瓦、敷石、灯籠。細部まで人の手で作り込まれたものがこれだけ入り込むと、普通はそれが目について、不自然さや、ある種の緊張感のような居心地の悪さが生まれてしまう。見る人に迫るようなこうした主張を「厳かさ」と表現して庭に求める人もいるかもしれない。けれど、この庭にはそれがない。人が作ったものと、土や石、多種多様な草木とが自然に馴染んで、同じように成長しながら少しずつ朽ち、控えめに美しさを増している。時間が経った時の姿を見越した「モノ作り」の本質を見た気がした。

中村宅の庭。Photo: Keisuke Fukamizu
Photo: Keisuke Fukamizu

この庭を作ったのが安諸親方であることを知ったのは、その少し後。お会いしてわかったのは、使われている素材が他の庭とはまったく違うということ。製材されたものが一つもなく、山や川から拾い集めてきた木や石を現場で加工し、瓦は古い家屋で使われていたものを再利用していた。それらは、「経年で育つモノ」という同じコンセプトで集められたものだろう。いまの時代に求められるような、早い、安い、簡単という合理性とは真逆にある、見た目にはわからないような内側や細部への強い拘りが、人の手で作ったものと自然とが調和した心地よい庭を作り上げていた。

 

経年によって着る人の個性を反映させながら美しく育つ商品を作る。安諸親方の庭作りに対する姿勢と、自分がモノを作る上で大切にしているコンセプトが重なる。靴や服を作る上でも、目に見えない部分、内側からの作り込みが大切だということを改めて考えるきっかけとなった。

親方を含め一世代前の人からは自然に近く、自由な発想で生きている印象を受けることが多い。他者からどう見えるかというプライドではなく、自身がどうありたいかという尊厳を大切にしているように感じる。それは仕事においても同じ。だからこそ、本人にしかわからないような、本当に細かな部分まで拘って作り込む。

Photo: Takeshi Abe
Photo: Takeshi Abe
Photo: Takeshi Abe

小石ひとつの配置をミリ単位で調整していたかた思ったら、次の日にはその上に土が被せられ、また別の石や苔をどう置くかを思案している。もちろん、今回も材料の木や石は山や川から拾い集めてきたもの。それを鋸や手斧、鑿を使って、現場で欲しい形に加工していく。敷石一つの収まりを調整するだけで1日が終わった日もあった。およそ10ヶ月という長い工期をかけ、行きつ戻りつを繰り返しながら少しずつ形になっていく「VISVIM GENERAL STORE」の庭。作庭の様子を記録し公開したのは、こうした仕事がいまも残っていることを知ってもらいたかったから。「より良いモノを」という高い志を持った職人の仕事に触れ、「モノ作り」について考える。「VISVIM GENERAL STORE」の庭がそうした場所になればうれしい。

 

*作庭の記録をまとめた動画、安諸親方のインタビューをSubsequenceサイトで公開しています。是非ご覧ください。

「錫」のカウンターと彫刻台

錫は非常に柔らかく加工しやすい素材。その歴史は古く、古代エジプトでも祭器や装飾品などに使用されていたというほど人間との関わりは深い。14世紀、錫の産地であるイギリスで産業化され、主に食器などがヨーロッパを中心に広く人々に使用されるようになった。無毒で水に錆びない強い耐蝕性を持ち、比較的安価な錫製品は長く人々に親しまれてきたが、陶磁器製品の台頭、ステンレスなど他金属の精錬、鋳造、加工技術の発展が影響でその場を失いつつある。

 

時間をかけてゆっくりと経年変化していく性質を持つ錫。それゆえ古色の錫には他の金属にはない独特な味わいがある。「VISVIM GENERAL STORE」のデザインを考えている時、日々使われ、訪れた人達の痕跡を少しずつ残しながら表情を豊かにするカウンター、彫刻台を作りたいと、素材に錫を使うことに決めた。

Photo: Takeshi Abe
Photo: Takeshi Abe

制作を依頼した錫作家の秦 世和(はだ せいわ)さんの仕事はどこまでも手作業。石板の型を使って「鋳込み(いこみ)」で成形した錫の板をカウンター、彫刻台それぞれを覆える大きさに繋ぎ合わせていく。板同士を接合するのに使用する素材も錫。同じ素材を使う「共付け」というこの工程では、特製のバーナーを使い少しずつ錫を溶かして、表面だけでなく隙間もしっかり埋めるように接合する。覆ったあとは錫加工用の特製の刃物「キサゲ」を使った表面の剥ぎ加工「キサゲ掛け」。木材を鉋(かんな)で成形する時と同じように、薄く削って不純物のある表面を剥ぎ錫の地肌を出す。小さい刃物のため、表面積が広い場合には長い時間がかかる大変な作業だ。

手仕事が仕上げたカウンターや彫刻台の表面を手で撫でると、まるで有機物のような心地よい歪みを持っていることに気づく。金属でありながら、その表情は柔らかくやさしい。使い込むことで、これからどのように育っていくのか、いまからとても楽しみにしている。

「型摺り染め」の襖

他では変えの効かない独特な擦れを表現する染色方法「型摺り染め」。その工法についてはDissertation「型摺り染め」で詳しく紹介した。

 

VISVIM GENERAL STORE」の吹き抜け部、2階を見上げると目に入る青色の大小様々な十字柄が描かれた襖。遠目からもわかる淡い色ムラ、擦れのあるこの絵柄は「型摺り染め」で染め描かれたもの。

長い歴史を持つ「友禅」を発展させた染色技法である「型摺り染め」を製品に取り入れるようになってから、ずっと制作をお願いしている染め職人の萩原さんには、これまでに衣類用の生地だけでなく、小物用の和紙や襖のような大きなものまで、多くのものを染め上げてもらった。「WMV VISVIM TOKYO」の大きな襖も萩原さんの仕事の一つ。

Photo: Takeshi Abe
Photo: Takeshi Abe

手彫りの伊勢型紙と丸刷毛を使って少しずつ色を挿していく、地道な手仕事だからこそ得られる趣のある表情。今年、明治から4代続いた萩原さんの工房は、残念ながらその長い歴史に幕を下ろした。築き上げるのに途方もない時間と努力が必要なこうした手仕事の技術や魅力が、一つでも多く後世へ受け継がれていくことを切に願っている。

 

Movie: Takeshi Abe

VISVIM GENERAL STORE / VISVIM GALLERY

東京都目黒区青葉台1-22-11

03 6452 4772