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Pile Fabrics / パイル織物

素材をイメージしてもらうために、誰もが知っている言葉で便宜的に表現するなら「フリース」となるだろうか。けれど、その定義が「ポリエステル糸などを丸編みした生地の表面を起毛させたもの」であるなら、これから紹介する素材は「フリース」とはまったく別ものということになる。

Category:Material
Date:2022.09.27
Tags: #fw22 #kouyaguchi #pilefabrics #visvim #wmv #パイル織物

「パイル織物」と「フリース」

素材をイメージしてもらうために、誰もが知っている言葉で便宜的に表現するなら「フリース」となるだろうか。けれど、その定義が「ポリエステル糸などを丸編みした生地の表面を起毛させたもの」であるなら、これから紹介する素材は「フリース」とはまったく別ものということになる。

「フリース」の起源については、「パタゴニア」のイヴォン・シュイナードと「モンデル・ミルズ」社による開発のストーリーがよく知られている。70年代、イヴォンが汗や雨で不快になる羊毛セーターに代わるポリエステル製のパイルジャケットを、漁師が着ていたポリエステル製のパイルセーターをインスピレーションに作ったという話。そこから改良が重ねられ、80年代に生まれた「シンチラ・フリース」は安価な防寒素材として広くファストファッションブランドなどで展開され世界中で大流行。「フリース」といえば、誰もがイメージできるまでの素材となった。

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ただ、ウールやコットンを使用したパイル地の衣料品は、漁師のポリエステル製パイルセーターや「フリース」が誕生する以前から存在した。ミリタリーのパイル地ライナージャケットやボア製のフーディージャケットなどがよく知られる。それらに比べ、70年代に生まれた「フリース」が画期的だったのは、耐水性を優先し化繊が使われたことだと言える。

ウールと同等の保温性と耐久性を備えながら軽量ですばやく乾く、奇跡の化繊とまで言われる素材「フリース」。しかし、ウールと比べた時の風合いや素材感、着心地においてはどうだろう。もし着用する環境が、汗をたくさんかくようなシチュエーションではなく、雨にびしょびしょに濡れるような心配もない場合、必要とする機能を考え直し、天然繊維の質感も取り入れてより魅力的な素材を考えることはできないだろうか。

もともと「フリース」には「1頭の羊から刈り取った1枚の羊毛」という意味がある。それはおそらく毛皮に近いようなもの。表情豊かで軽く温か、そしてとても丈夫な素材だったのではないだろうかと想像する。この言葉本来の意味に立ち返り、パイル糸には上質な羊毛を使う。そして、地糸にはしっかりと密度の詰まった綿、着こむほどに肌になじみ美しく経年変化する麻を使ったらどうだろうか。地の丈夫さは編み組織ではなく織り組織で確保する。現在流通している「フリース」とは異なる、ウール本来の長所はもちろん、綿と麻という天然繊維の特性も備えた新たな「パイル織物」の開発はそうした発想から始まった。

パイル織物のルーツである再織(さいおり)のテーブルクロス。昭和4年に天皇陛下へ献上されたもののレプリカ。(高野口パイル織物資料館蔵)
高野口パイル織物資料館。パイル織物、そのルーツである再織の歴史や制作工程を知ることができる貴重な資料や生地、織機などが数多く展示されている。

高野口の「パイル織物」

「パイル織物」とは、経糸と緯糸からなる基生地の片面または両面にパイル(ループ状の糸もしくはそのループ上部をカットした糸)を織り出した織物のこと。身近なところでは新幹線や電車の座面、あるいはソファの張地などに使われている立毛した生地がある。

和歌山県北東部の高野口。古くから高野山への参詣口として栄えたこの地は、「パイル織物」の産地としても知られている。江戸時代、町の中心に流れる紀の川の水運と豊かな水量を利用して、養蚕や機織り(はたおり)が盛んに行われるようになり、明治時代には、高野口を地元とした前田安助がスコットランド発祥の「シェニール織」を元に、一度織り上げた生地をモール状に裁断し、再び柄合わせをしながら織り上げる特殊な織物「再織(さいおり)」を創案。大正初期には、さらに技術研究が進んで「パイル織物」へと発展させてきた歴史を持つ。

創業1933年、老舗のパイル織物・編物の機屋「松岡織物株式会社」。高野山の峰々を背景に紀の川を望むことができる、緑豊かな風の通りのよい場所に工場はある。工場に入ると一本の通路を隔てて、幅2m×奥行き3m ほどある大きな織機が両サイドに7~8台ずつ並び、ガシャン、カシャンとリズミカルに大きな音を立てて稼働している。

「パイル織物」の製造工程は、整径(原糸を同じ長さの1本の糸にまとめて、ビームと呼ばれる巨大なロールに巻きつける工程)、製織、蒸気蒸し、そして仕上げに毛割、シャーリング(遊び毛をカットして一定の長さに揃える工程)、タンブラー乾燥、テンター(糊付け)の工程からなる。

「第3 二重ビロード組織(double pile fabrics)」が本ページで紹介している素材の組織の説明箇所。非常に複雑な構造であることがわかる。「高等学校用 機織2/文部省著作教科書」

製織の工程では、上生地用と下生地用として経糸がセットされた織機で、パイル用の糸がその上生地と下生地の間を交互に行き来しながら生地を織っていき、その2つの生地の間を左右に往復するナイフで糸をカットすることで上下が切り離され、同時に2枚のパイル生地ができあがる。パイルが抜けにくい構造にするために基生地の密度は高く、かつパイルのおしりが表面に出ないように基生地の糸が外側からかぶさるような作りで織られている。図を用いながら説明されてもなかなか理解が追いつかない複雑な構造は、1台の織機に経糸とパイル糸をセットするだけでも1ヶ月を要する程。

織り上がった生地は蒸気蒸しされる。「蒸気の当て方次第で毛割の加減が違ってくる。」松岡織物株式会社の松岡さんは、「糸がリラックスしすぎると毛割しすぎてしまって、ウール本来の荒々しさがなくなる」と言う。加工の温度、使用する刃の固さ、尖り方は生地の特性と仕上がりイメージにあわせ、熟練の職人の手で調整されている。

化繊であればこれほど手がかかることはない。ウールだけでなく、綿や麻という地の素材としてはほとんど使用されることのない天然繊維を取り入れた生地であるがゆえ、こうした複雑な工程の上に細やかな職人の手仕事があり、この場所でしか作ることができない「パイル織物」が完成する。

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高度成長期、高野口では日本全国のパイル織物の80%を生産しており、新幹線車両の座席は全て「MADE IN KOUYAGUCHI」であったと言われるほどだったが、バブル期の頃から海外生産の廉価品が輸入されはじめ、生産量は徐々に少なくなってきている。さらに「パイル織物」は、その技術の複雑さとニット編み技術の進歩もあり、衣料としてのパイル生地はパイル編地に置き換わってきた。現在高野口は、唯一無二のパイル織物・編物の産地として、高品質なパイル生地製造の技術を継承しながらも、常に新しい技術・商品の開発に取り組んでいる。

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