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Dissertation

visvim Spring and Summer 2025

今回のコレクションで形になったもののひとつに、オリジナルのジッパーがあります。現代においてジッパーを製造しているメーカーはごく限られているのですが、1940〜60年代ごろのヴィンテージウェアの時代には、〈riri〉〈TALON〉〈CROWN〉〈CONMAR〉など多様なメーカーが存在していました。

Category:Philosophy
Date:2024.12.24
Tags: #ss25 #toenhanceinnerquality #visvim #内面的な質を高める

"内面的な質"を高める

今回のコレクションで形になったもののひとつに、オリジナルのジッパーがあります。現代においてジッパーを製造しているメーカーはごく限られているのですが、1940〜60年代ごろのヴィンテージウェアの時代には、〈riri〉〈TALON〉〈CROWN〉〈CONMAR〉など多様なメーカーが存在していました。

真鍮などの素材で作られた当時のジッパーは、現在一般的な鋳造(加熱して液体にした金属を型に流し込み、冷やし固める加工方法)とは異なり、プレス(薄い金属板に金型を押しつけて変形させる加工法)で作られていて、機械的な重厚感や閉めたときに感じるフィーリングが好きでした。もちろん現代のジッパーには大量生産に適した安定した物性と耐久性、軽さや扱いやすさがあるのですが、見た目や手触りを含めた質感の面でやはりかつてのジッパーとは大きく異なると感じていました。

そんな思いがあり、実は数年前から大手メーカーとともに僕たちが求めるクオリティを持ったオリジナルのジッパーを作ろうというプロジェクトを進めていました。その結果、指でつまむ引き手だけでなく、スライダーの胴体や肩口まで、一つひとつの部品をすべて新たにデザインした上で金型を起こし、日本国内の工場でプレスし、組み合わせて作るという方法で製造することになったんです。

さまざまな製品で日常的に見かけるジッパーですが、これを一から設計して作るには膨大な労力と時間がかかります。ジッパーのサイズごとにパーツの大きさも違うので、コスト面から考えてもこうした方法でオリジナルのジッパーを作ること自体が異例ですが、メーカーの方々も意欲をもって取り組んでくださり、試作を繰り返して、良い質感と現代的なプロダクトとしての高い安定性をもった理想的なジッパーを作ることができました。

ジッパーは小さな部品かもしれませんが、これが異なるだけでプロダクト全体の表情がまったく変わります。見た目の色や形だけでなく、手で感じるウェイト、フィーリングなど、すべての面において違ってくる。古い車のドアを閉めたとき、独特の音やずっしりとした重さを感じるように、五感に訴える感覚こそが僕にはリッチに感じるんです。現代ではあらゆる技術が進化しているように思われるかもしれませんが、こうした質感の部分では"退化"している面があるのではないかと、疑問を感じることも少なくありません。本当のクオリティとは、単にモノのスペックや数値でなく自分自身が感じるフィーリング、"内面的な質"だと考えています。

「昔ながらのものづくりは現代の産業の環境には合わないから」とあきらめず、今にないものを作ろうと、メーカーの方々とチームを作りチャレンジできたことはとてもエキサイティングで嬉しい出来事でした。時間をともにして仕事するうちに、互いの考えの理解が進み、少しずつハーモナイズしていく。これからも毎年、細部がさらに良くなっていくよう取り組んで、精度をあげていきたい。やっぱり積み上げることでしか、クオリティを高めることはできないと思うので。

文:井出幸亮

写真:深水敬介

Dissertation on Quality We Choose

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