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Dissertation

A Timeless Universal Harmony

すべてが簡単に、便利になっている現代の人々にとっては、ネクタイを締めたり革靴を履いたりすることは少し窮屈で面倒なことなのかもしれません。だけど、そもそもファッションとは単なる合理性を超えて、自分自身の満足を求める気持ちが反映されるものではないでしょうか。

Category:Philosophy
Date:2026.09.08
Tags: #fw26 #necktie #tradhitionalstyle #visvim
0126205013002 ACADEMIA JKT, 0126205012002 DIAMANTE VEST KNIT, 0126205011002 BEILER OX SHIRT L/S, 0126205008006 BROADER CHINO CRASH, 0126203003002 NECKTIE STRIPES, 0126203003011 EXCELSIOR II CAP TRACKS, 0126203003024 KAPPA DUFFEL (L)
0126205011002 BEILER OX SHIRT L/S, 0126203003002 NECKTIE STRIPES
手で引いたような太さにムラのあるストライプを織りではなく、染色(プリント)で表現したオックスフォード素材のボタンダウンシャツ。染めによるストライプ(縞模様)は「筒描き」など古くから日本の伝統的な染色技法の素材にも見られる表現。

自分を喜ばせる、トラッドの楽しみ

長い歴史のスパンで見てみると、世の中のファッションは時代を経るごとにカジュアルになってきています。近年は特に、着心地が楽でメンテナンスが簡単、便利で手間がかからない衣服に人気が集まっていて、Tシャツ、ジャージ、スニーカーなどが世界的に広がり、着られるようになっている。素材もまたスパンデックス、ポリエステルなどの比較的新しい人工繊維が中心になってきています。

そうした大きな傾向の中では、いわゆる「トラディショナル」なスタイルのファッションはだんだん着られなくなりつつあると感じます。日本では、1960年代から若い人たちの間で「アイビー・スタイル」と呼ばれるアメリカン・トラッドのブームがあり、メンズファッションにおけるベースのひとつになってきました。ボタンダウンシャツや3つボタンのジャケット、タイ、ペニーローファーなど......。そうしたトラッド的な流れがあり、僕が高校生だった80年代にも、学生たちの間ではダッフルコートやピーコート、ローファーなどが人気がありました。今でも、昔からずっとそうしたトラッドスタイルを愛し、かっこよく着こなしている年配の紳士を見かけたりしますよね。

0126205013002 ACADEMIA JKT, 0126205013001 NEWFOLK VEST, 0126205008019 BROADER SLACKS
ウールリネンのフランネル素材を使用したジャケット、リバーシブルベスト、スラックスの3ピース。膨らみのあるウールにリネンを加え織り上げた素材に、起毛加工を施し経年し油分が抜けたようなドライな風合いを表現。ジャケット、パンツはゆったりとしたクラシックシルエット。ベストは裏面にウールリネンのサテン素材を使用したリバーシブル。ガラスビーズを使用した刺繍ディテールもデザイン違いで両面に。
0126205013003 BURNSTONE BLAZER RIDGE CORDS, 0126205011014 MERIDIAN CHECK L/S, 0126205008020 BROADER SLACKS RIDGE CORDS, 0126203003001 NECKTIE, 0126203003012 EXCELSIOR II CAP APOLLO
0126205013003 BURNSTONE BLAZER RIDGE CORDS, 0126205007001 SOCIAL SCULPTURE SHIRT DMGD, 0126205005004 SOCIAL SCULPTURE 01 WIDE DMGD-41, 0126203003001 NECKTIE, 0126203003012 EXCELSIOR II CAP APOLLO, 0126203003027 CARRYALL TOTE (M)
0126203003026 JUNEAU TOTE (M), 0126203003027 CARRYALL TOTE (M)
年齢、性別、スタイルを問わず取り入れやすいクラシックなデザインのトートバッグ。持ち手の長さ、サイズ違いで計4種を展開。イタリアの老舗テキスタイルメーカーが織り上げたキャンバス素材は、丈夫なだけでなく歴史を感じさせる上品な表情が特徴。使い込むほどに馴染んで快適さを増す。

すべてが簡単に、便利になっている現代の人々にとっては、ネクタイを締めたり革靴を履いたりすることは少し窮屈で面倒なことなのかもしれません。だけど、そもそもファッションとは単なる合理性を超えて、自分自身の満足を求める気持ちが反映されるものではないでしょうか。楽で手間がかからないことだけが、自分を喜ばせてくれるわけではないから。例えば、僕はレコードで音楽を聴くのが好きですが、それはオンライン・ストリーミングで聴くよりもずっと手間がかかります。プレーヤーにレコード盤と針をセットして、終わったら盤をひっくり返す。メンテナンスだって必要です。でも、僕はそうしたすべてのプロセスそのものを楽しんでいるんです。

もちろんリラックスできることは素晴らしいですが、そうした中に、自分自身の喜びのために、ちょっと面倒かもしれないけど、革靴を履いてみるとかネクタイを締めてみるとかいった楽しみを取り入れてみるのも素敵なこと。そんな思いから、スウェットやスニーカーの着こなしにもマッチする、トラッドなアイテムを現代的に再解釈したプロダクトを作っています。

中村ヒロキ

0126205013004 BURNSTONE BLAZER TWEED, 0126205012003 COLLEGIA V-NECK KNIT, 0126205011001 BEILER SHIRT L/S, 0126205008008 FURROW CHINO DMGD, 0126203003002 NECKTIE STRIPES, 0126203003006 DIAMANTE SOCKS HI, 0126203003012 EXCELSIOR II CAP APOLLO, 0126203003026 JUNEAU TOTE (M), 0126202002006 FABRO-FOLK
0126202002006 FABRO-FOLK
クラシックなデザインと適度なボリュームが特徴のペニーローファー。ベジタブルタンニングで丁寧に鞣したイタリア産ホースレザーのアッパーを熟練の靴職人が手縫いで縫合するハンドソーン構造。オリジナルのVibramアウトソール(ゴム製)、荷重で沈むコルクインソールで快適な履き心地。足が直に触れる部分の多くは天然素材で通気性や透湿性にも優れる。
0126205012006 SELMER V-NECK KNIT (CASHMERE)
肌に直接触れてもストレスのない最高品質のカシミヤを使用したハイゲージニット。細い糸を適度なテンションで編み上げることで軽く柔らかな着心地。耐久性にも優れた素材。保温性が非常に高く薄手でも暖かい。
0126205013003 BURNSTONE BLAZER RIDGE CORDS, 0126205012004 ISLE CREW KNIT, 0126205011002 BEILER OX SHIRT L/S, 0126205008020 BROADER SLACKS RIDGE CORDS, 0126203003002 NECKTIE STRIPES, 0126203003028 CARRYALL TOTE (L), 0126201001004 SKAGWAY HI G.PATTEN

手縫いのネクタイ

ネクタイのルーツは、17世紀にフランスからイギリスへと伝わったクラバット(cravat)と呼ばれたスカーフ状の襟元の装飾品であるとされる。とはいえ、現在よく知られる細型で先端が剣先のように尖った形状の結び下げネクタイが一般的になったのは、さほど昔のことではない。1926年、ニューヨークのネクタイメーカーが生地をバイアス(斜め45度)にとり、大剣/小剣/繋ぎという3つのパーツに分けて裁断、縫製することで結びやすく、生地を無駄なく使う製法を開発。これが世界に広まり、大正期には日本でもモダンなビジネスマンのスーツスタイルとともに取り入れられ始めた。

1935年に東京で創業したとあるネックウェア専門企業は、そうした歴史とともに歩んできた老舗のひとつ。現代に至るまで90年以上も国産ネクタイを作り続けてきた同社が、visvimのネクタイ生産を手掛けている。

今シーズンのネクタイで使われるオリジナルのウールシルク生地は、一般的なネクタイで多く使用されるシルク100%のそれよりも量感や温かみが感じられるもの。そのウールシルクに洗い加工を施すことで、ふっくらとして毛羽立ち感のある、ヴィンテージ的な質感が生まれている。

この表地を芯地と糸で筒状に縫製することでネクタイは作られる。言葉にすればシンプルだが、その作業工程は数多く、しかも大部分が職人による手作業で行われるものだ。

まず型紙を使用して生地を裁断し、大剣/小剣/繋ぎのパーツに分ける。レジメンタル柄(斜めストライプ)は生地の縦横に対して斜めにとるバイアス裁断から生まれた柄だが、この構造は経済合理性のみならず、生地の伸縮性を活かすことができ(格子構造の織物は縦横には伸びづらいが斜めには伸びやすい)、ネクタイを結びやすくする。一方で、伸びやすい状態にある生地を使って作業をすることは、取り扱いに繊細さを要することも意味する。

次に上記パーツをミシンで繋ぎ、専用マシンにセットして裏地を縫い付ける。機械を使用しながらも、そのプロセスは人間との共同作業。特にネクタイの"心臓部"とも言える剣先の美しさを出すためには、細心の注意が払われる。立体的な構造の剣先をプレスによって角出しするとともに、エッジ部分は柔らかい膨らみが生まれるよう、繊細な手先の感覚でバランスを整える。

一本一本アイロンをかけた後、ネクタイ裏の「手縫い」の作業に入る。この工程は一般的には専用のマシンによって瞬間的に縫製されるケースが大半だが、これを人の手で縫うことで、微妙な匙加減によって生まれたドレープが「遊び」のある表情をもたらす。芯地を包み込んだ表地に待ち針を打って仮縫いし、その待ち針を外しながら表地と芯地を糸ですくい縫いしていく、最も手のかかる作業だ。その後、裏側の小剣通し(ループ)を縫い付け、アイロンで再び形を整えて完成となる。

0126203003001 NECKTIE, 0126203003002 NECKTIE STRIPES
オリジナルのタイヤ痕プリントが特徴のネクタイはウールとリネンのギャバジン素材で長い年月が経過したようなドライな肌触り。アメリカントラッドを象徴する左上がりストライプ柄のネクタイはウールとシルクのジャカード素材で洗いをかけふっくらとラフに仕上げた表情が特徴。

すべての工程において職人の動きは素早く、いとも簡単に行われているように見えるが、その精度は極めて高く、そこには長い時間が生んだ熟練の技術がある。しかし近年、気候やライフスタイルの変化によりネクタイの需要が減少し、工場、作り手、機械など生産環境の変化により国内での製造は困難になりつつあるという。専門性が高く容易に育むことのできないネクタイづくりの高度な技術が、今もここで受け継がれている。

文:井出幸亮

写真、動画:深水敬介