Dissertation
visvim Spring and Summer 2026
数年前からシルク(絹)の可能性を改めて探っています。蚕が吐く極細の糸からなるシルクは軽くしなやかで肌触りが良く、美しい光沢があり、透湿性が高く夏は涼しくて冬は温かいという特性から、日本では紬などの着物の素材として古くから使われてきました。
| Category: | Philosophy |
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| Date: | 2025.12.23 |
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| Tags: | #areturntosilk #ss26 #visvim #シルクに戻す |
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シルクに"戻す"
数年前からシルク(絹)の可能性を改めて探っています。蚕が吐く極細の糸からなるシルクは軽くしなやかで肌触りが良く、美しい光沢があり、透湿性が高く夏は涼しくて冬は温かいという特性から、日本では紬などの着物の素材として古くから使われてきました。そして、丹後(京都府)や鶴岡(山形県)、桐生(群馬県)をはじめとした各地で、絹織物が長く織り続けられてきました。
機能性に優れた天然素材であるシルクですが、製造工程が複雑で手間がかかり高価であることや社会の近代化による生活様式の変化から需要が減少し、1960〜70年代ごろからナイロンやポリエステルなど生産効率の良い合成繊維が開発され、取って代わるようになりました。コーチジャケットなどのスポーティなアイテムでは特に、合成繊維のタフタ(密度の高い平織り生地)などが使われ、典型的なスタイルのひとつになっています。


そうした状況に対して、僕たちはこれらの合成繊維が使われてきたアイテムをあえてシルクで作るという試みを行っています。経済合理性の観点から主流になったナイロンを、その"大本"であるシルクに戻し、構築し直すというようなイメージですね。試行錯誤を経て、天然素材の持つ美しさや機能性を活かした新しい感覚のプロダクトが生まれました。

こうしたものづくりが可能になったのはもちろん、日本の絹織物の生産背景が存在しているからこそです。僕が子どもの頃には、まだ 着物を日常着として着る人々がいて、絹織物の生産量も大きく、産業としての活気もありました。しかし時代の変化とともに着物を着 る習慣は急速に廃れて、結婚式や卒業式などの特別な日にだけ着る「晴着」という位置づけへと変わっていきました。生産量は縮小し、産地も衰退しましたが、それでもまだ日本には、長い時間の中で培われた高度な技術を受け継ぎながら作り続けている生産者が、かろうじて残っています。世界の国々を見ても、これだけの歴史があるものづくりが産業として継続できている地域はほとんどありません。先人が伝え続けてきてくれた技術と文化を、本質を失うことなく現代のマーケットとつなげていく。それこそが僕らが担うことのできる役割なのかなと、日々、考えています。
Dissertation on Completely Harmonious
visvim Spring and Summer 2026
文:井出幸亮
写真、動画:深水敬介







