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Kiri-Geta / 桐下駄

玄関で靴を脱ぐ習慣があり高温多湿な気候の日本において、下駄はとても理にかなった機能的な履物ではないかと、〈visvim〉は2012春夏シーズンから、レザーのブーツやスニーカーと同じようにコレクションの一プロダクトとして新たな商品を作り続けている。

Category:Products
Date:2023.03.14
Tags: #kirigeta #visvim #wmv #桐下駄

普段、街中ではすっかり見かけなくなった日本の伝統的な履き物である「下駄」。ただ、いまでも少なからず愛好者はおり、趣のある寿司屋や小料理屋を訪れると厨房から「カラン、コロン」とご主人が履いた下駄の音が聞こえてくるようなことがある。和食の世界で下駄履きの文化が残っているのは、素足で清潔であることや、鼻緒を足の親指と人差し指でしっかりと掴んで踏ん張りが効くことが、やや前のめりの調理の姿勢に適しているなど機能性が評価されてのこと。

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日本で靴が履かれるようになったのは江戸末期。明治新政府の軍服用として革靴が取り入れられ徐々に民間にも広まっていった。それ以前の履き物といえば下駄や草履、草鞋が一般的で、中には素足で暮らす人々もいた。1950年代頃までは、各家庭に一足はこうした日本の伝統的な履き物があったと言われているが、いまでは一部の愛好者の物、和装の際に履く特別な物とされ所有している人自体少なくなっている。

 

玄関で靴を脱ぐ習慣があり高温多湿な気候の日本において、下駄はとても理にかなった機能的な履物ではないかと、〈visvim〉は2012年春夏シーズンから、レザーのブーツやスニーカーと同じようにコレクションの一プロダクトとして新たな商品を作り続けている。

2012年に制作した桐下駄(sample)

硬質で艶のある国産の桐

 

桐は国産樹木の中で最も軽量で、色白の木肌が美しい。気泡を含んだ特殊な繊維構造により熱伝導率が小さいため、断熱性が高く調湿にも優れている。またタンニンなどの成分を多く含むことで防腐・防虫性が高い。このような特性を持つ桐は、貴重な書面などを保存するための箱、雅楽の伎楽面や琴など伝統芸能や文化などに関わる使い方、箪笥や下駄などの日用品として日常生活にも深く浸透し、広く利用されてきた。

 

寒冷地である福島県の会津や新潟県の山間部では、桐の成育が遅いために年輪が細かく、厳しい冬と湿潤な夏という温度差の大きな気候風土によって、硬質で艶のある桐が育つ。その良質な新潟産の桐材を使い、〈visvim〉の下駄を制作してくれている、大正8年創業の和装履物専門店「小林履物店」を訪ね、製造工程を見せていただいた。

桐下駄の価値は柾目(まさめ)の美しさで決まる

 

新潟市西蒲区の中央商店街に位置する店舗から車で10分ほどの場所に、製材所と加工場が隣接した工房がある。製材所の入り口には、桐の原木が40cmほどの丸太の状態にカットされ積まれていた。「渋抜き」といい、屋外で繰り返し雨風にあて自然乾燥を繰り返すことで、加工後の変色や割れを防ぐ大切な工程である。形状にもよるが、桐下駄の加工は数十工程に及び、 原木を下駄の形に切り出してから乾燥させ、仕上げに入るまでに1年以上かかる。

 

桐下駄の価値は柾目の美しさで決まる。丸太から小材を切り取る方法は、年輪に対して垂直に切り取る柾目と丸太の端から平行に切り取っていく板目(いため)の2種類がある。効率よく製材できるのは板目だが、下駄づくりにおいては直線的な木目が現れる柾目が美しいとされ、その木目が細かく直線的であるほど希少性が高い。その見た目が美しいというだけでなく、切断面の収縮率が均一であるために反りが起こりにくいという特徴もある。

丸太に刃を入れる位置を決める工程「墨掛け」は、外観や重量という限られた情報から木の内部の状態を読み取る必要がある。「年輪の特徴や節、虫食いなど一つとして同じものはなく、これまでの経験から丸太の木目をよみとり、どのように切り取るかを判断する」と四代目の小林正輝さんは言う。より美しい柾目の板取りができるかどうかはこの熟練の職人技にかかっている。墨掛け後に切り出された小材には、木目をあわせるために印をつける。同じ丸太から切り出し、左右で年輪がつながっている「合い目」がより価値があるとされている。

 

左右の巾を合わせる「側(そば)取り」、歯を切り出す「下駄挽き」、熱湯につけて歯の側面をキレイに整える「歯鋤き(すき)」、そして乾燥。大まかな下駄の形が出てきた後は、鑿(のみ)や鉋(かんな)、形状に応じた専用の道具を使い、手作業で仕上げていく。その仕上げ方次第で、表面の滑らかさやバランスは大きく異なり、履き心地に影響する。

本漆塗りの仕上げ

 

SS23シーズンの〈WMV〉(レディース)の下駄は本漆塗りの2色を展開する。新潟漆器の伝統工芸士である井村篤史さんは、4回の塗りと研ぎこみ、さらに7回の塗りを繰り返す。素人目には、塗りの回数が少ない状態でも美しく仕上げられていると感じるほどの精度だが、実際に塗り上げられた完成品と比べてみると確かに色の深みが違う。より艶やかで美しい仕上がりを目指す職人のこだわりが感じられる。

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特に白漆の塗りを美しく仕上げるのは難しい。白い顔料と漆を練り合わせて作った白漆は、塗ってしばらくすると漆本来の茶褐色が現れて濃いベージュになり、さらに固まってくるとゆっくり顔料の白がでてくる。これは空気中の水分と合成して固まるという漆ならではの性質によるもので、希望の色味を一定の品質で実現するには、温度、湿度、漆と顔料の調合具合など、職人の知識と経験による絶妙な調整が不可欠となる。

「下駄」自体の所有者は減っているが、どの家庭にもある「下駄箱」にその名が残っているように、日本人にとって馴染みのある文化を、ただ美しい伝統工芸として残すのではなく、あらためてその機能性や形状のユニークさを見直して現代のライフスタイルに取り入れる提案を続けていきたい。

写真、動画: 阿部健