Dissertation
Survey: Katsuo-bushi / 鰹節(静岡・浜松市)
世界広しと言えども、鋼の刃の入った鉋(かんな)で削らなければ食べられないほどに硬い食物は、「鰹節」以外に見当たらないだろう。乾燥し、水分の抜け切った鰹節の硬度はそこらの石よりも高い。
| Category: | Survey |
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| Date: | 2016.03.29 |
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| Tags: | #katsuo-bushi #survey #浜松市 #鰹節 |
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"Survey"とは「調査・検分」の意。〈visvim〉が日々、ものづくりをする上でインスピレーションを与えてくれる魅力的なモノ、人、場所、文化などさまざまなトピックを独自の視点で取り上げ、レポートします。

日本独自の技術を育んできた、「削る」鰹節の文化。
世界広しと言えども、鋼の刃の入った鉋(かんな)で削らなければ食べられないほどに硬い食物は、「鰹節」以外に見当たらないだろう。乾燥し、水分の抜け切った鰹節の硬度はそこらの石よりも高い。「鰹」の漢字は「魚」に「堅(かた)」と書くが、これも日本人が古来、春に黒潮に乗って北上し、秋に南下する鰹を干ものにして食べていたことからとも言われている。

和食において欠かせない「出汁」文化の要である鰹節は日本独自の伝統的な発酵食品だが、実はこの鰹節に似た食べ物が、インド洋北部のモルディブ諸島にのみ存在する。生の鰹を塩水で煮て燻煙し、天日干しする「ヒキマス(モルディブ・フィッシュ)」と呼ばれるもので、これは鰹節の製造過程で生まれる「荒節」と呼ばれるものと同じである。スリランカではこれをハンマーで砕き、カレーなどに入れる調味料として使う。



鰹節の原型となるような、保存食としての鰹の干物は大和朝廷(4〜5世紀)の時代には存在したが、現在の鰹節と同様のものが作られるようになったのは江戸中期、17世紀の土佐(高知県)でのこと。紀州(和歌山)からの出稼ぎ漁師だった角屋甚太郎とその息子が、薪を使って煙で燻し、乾燥と同時に香りづけする「焙乾」の手法や、鰹に良質のカビをつけて熟成させ旨味を増す方法を開発。土佐藩はこの製法を門外不出の"秘伝"としたが、18〜19世紀にかけて鹿籠(鹿児島県枕崎市)へ伝わり、そして紀州出身の土佐与一という男が房州(千葉県)や伊豆に伝え、各地に伝播する。与一は他藩へ秘法を漏らした罪により、帰郷が許されなかったという。

当時の鰹節は高級品で、大坂(大阪)や京都の上流家庭で煮物・汁物料理に旨味を加えるため鰹節が出汁として使われるようになった。明治時代に入ると産地間の競争が起こって品質が改良され、徐々に庶民の生活に浸透。昭和初期には植民地支配下の台湾や南洋諸島などでも製造が行われるようになり、さらに普及が進んでいった。

鰹節ができるまでの工程は多く、その完成までにはとても長い時間がかかるもの。ごく大まかに分けると、以下の通りとなる。
1. 鰹の頭を落とし、3枚に下ろす。大きい鰹はさらに背と腹に切り分ける。
2. 籠に並べて湯で煮た後、手作業で骨を抜く。
3. 蒸籠に乗せて火力で燻す「焙乾」を行う。
4. 表面についたタールを削って形を整える。
5. 天日で乾燥させ、室に入れてカビ付けを行う。職人がこの作業を繰り返し、カビ付けを4度以上行った最高級品を「本枯節」と呼ぶ(ここまでに約120日かかる)。カビの効果により、脂肪分が分解され味がまろやかになる。


かつては日本の家庭の多くに「鰹節削り器」が常備され、使用する直前に鰹節を削る光景が見られたが、だしパックや顆粒だしなどが主流となっている現在、削り器を持つ人は激減している。工場で削った「削り節」に酸化防止のために窒素を封入した"フレッシュパック"もあるが、安価なものの多くは上記工程 3. までの「荒節」を使用したもので、「本枯節」を削ったものに比べると味や香りが劣る。また開封後には少しずつ風味が落ちるため、香りにこだわるならやはり節のままの本枯節を自ら削って使うのがベスト。「挽きたてのコーヒー豆」と同じく、「削りたての鰹節」が持つ香味に敵うものはない。

静岡県浜松市で創業220年を超える『松作商店』は、良質の鰹節にこだわる全国でも屈指の専門店。店主の鈴木功雄さんが厳しい眼でセレクトする本枯節はすべて鹿児島県の指宿、枕崎の製造業者によるもの。「長年をかけて蔵の中に住み着いたカビを使ってカビ付けをする、その職人の腕によっても仕上がりが違う」と鈴木さんは言う。「本枯節の中でもさらに極上とされる、近海での一本釣りの鰹によるものも扱っています。身を塩水で冷凍していないので、ふわりとした歯ざわりとあっさりとした上品な風味。和食の料理人の方が求められることが多いですね」


同店では多種の高級鰹節削り器も扱っており、その多くは鈴木さんが企画し、職人の手により仕上げられたものだ。柔らかい地金と硬い鋼(はがね)を鍛接した「鉋刃」は新潟・燕三条や兵庫・三木の鍛冶職人が手で鍛造し、鉋台には国産の硬い白樫、外箱には桐や欅が使われる。防虫防水効果の高い柿渋を塗ったものや、地元職人が鎌倉彫を施したものなどもある。
「刃を鍛造する職人、鉋台を作る職人、台に刃を入れる職人、外箱を作る職人。それぞれ違う職人の技術を組み合わせて、一台の削り機ができます。長い鉋刃は手入れしながら50年以上も使い続けられる。削りたての本物の鰹節は、ご飯にそのままかけても、出汁を取っても抜群の風味で栄養価も高い。ぜひ一手間かけて味わって欲しいですね」

松作商店
430-0932 静岡県浜松市中区 314−26 松作ビル 1F
www.matsusaku.com
文:井出幸亮
写真:深水敬介








