Dissertation
Survey: Naito Auto / 内藤オート(東京・東久留米市)
1957年式ロータス・イレブン・ガルウィング"ル・マン"クーペ、64年式フェラーリ250LM、64年式シェルビー・コブラ289MK2......通常は到底お目にかかれないレベルの、まさに「博物館」級と言える車ばかり。ここ『内藤オート』はこうした世界的に貴重なクラシック・スポーツカーを中心にレストアと販売を専門に行う工房だ。
| Category: | Survey |
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| Date: | 2017.03.28 |
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| Tags: | #naitoauto #survey #visvimmotorsclub #内藤オート #東久留米市 |
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"Survey"とは「調査・検分」の意。〈visvim〉が日々、ものづくりをする上でインスピレーションを与えてくれる魅力的なモノ、人、場所、文化などさまざまなトピックを独自の視点で取り上げ、レポートします。

古き良き車に込められた"情熱"を蘇らせてきた60年。
東京・東久留米市、郊外都市の住宅街にひっそりと、小さな工房が佇んでいる。錆びた欄干とアルミサッシが年季を感じさせる木造2階建ての下階で、オイル臭漂う空間に大小のパーツや道具が所狭しと詰め込まれ、年配世代から若者までツナギ姿の工員たちが黙々と、真剣に作業に汗を流す。その光景は一見、正しくありふれた「町工場」のそれと言える。そこにズラリと並んだ、目を疑うばかりの車たちを除けば。



1957年式ロータス・イレブン・ガルウィング"ル・マン"クーペ、64年式フェラーリ250LM、64年式シェルビー・コブラ289MK2......通常は到底お目にかかれないレベルの、まさに「博物館」級と言える車ばかり。ここ『内藤オート』はこうした世界的に貴重なクラシック・スポーツカーを中心にレストアと販売を専門に行う工房だ。1952年に現オーナー内藤正夫さんの父であり、日本の自動車黎明期から活躍する腕利きのエンジニアだった眞一さんが創設。現在はその孫である慶さんと聡さん兄弟が、父、そして祖父の代から務める大ベテランの中川晃次さん、内藤滋さんらとともに工房を運営している。


世界で数台〜数十台しか生産されていない、あるいは現存していないレベルの稀少車を扱うことも珍しくない内藤オートだが、彼らがその経験と技術を注ぎ込み、手をかけているのは、ミュージアムで飾っておくためだけの車ではない。目指すのはあくまで「走らせる」こと。それも「デリバリーされた当時の姿に限りなく近い状態にまで再生させる」ことこそ、彼らの信条だ。「僕たちはやはりオリジナリティを大切にしているので」と聡さんはその理由を語る。


「もちろん古く稀少な車ですから、交換用のパーツをメーカーもストックしておらず、手に入りにくいこともありますが、祖父や父が永年この仕事に携わり、またヨーロッパでレースに参加してきた経験があるので、そこで培った広い人脈から貴重なパーツを入手できることもあります。それはありがたい環境ですね。もしまったく同じパーツが見つからなかったとしても、正しい知識に基づいたルールの中で、自分なりのアプローチでベストな方法を探っていきます」
そう語るとおり、創業以来60年の歴史に裏付けられた彼らの知見と技術を信頼して、世界中からレストア用の車が持ち込まれ、購入のオーダーが来る。海外留学も経験した慶さん聡さん兄弟もまた、父と先輩エンジニアの元で実践経験を積みながら「日々、勉強中」だ。


彼らが"オリジナル"にこだわるのには、理由がある。
「僕たちが60〜70年代ごろの車に惹かれるのは、やはり非常に高いレベルのものづくりの技術が注ぎ込まれていたから。例えば、当時のアルミボディの車はすべて熟練の職人による"叩き出し"の技術で成形されています。また60年代はガソリンエンジンの技術が最も成熟し、完成した時代だと言えると思います。当時は欧米でも日本でも、自動車の生産技術は国家の威信に関わる重要なものでしたから、エンジニアやデザイナーが目いっぱいの情熱を傾けて車を作っていた。その頃に作られたものは、例えばドアを締めた時の音ひとつとっても、立て付けの良さが肌で感じられます。しかし、その後の時代になるにつれて、いかに楽に、便利な車を作るか、また効率的なものづくりを目指すようになり、かつての生産環境は失われていきました」


70年代に入ると、アメリカで"マスキー法"と呼ばれる排ガスなどの保安基準が定められたことにより、ライトやバンパーの位置などのデザインが規制され、各メーカーが自由にオリジナルのデザインを施すことが難しくなったという事情もある。車に限らず、高度資本主義社会が世界に広まり始めた1970年代以後、合理化・効率化の中で、画一的な商品が市場に溢れるようになったことは否めない。


「現代の車はボディの劣化を防ぐために、表面にクリアと呼ばれるコーティング剤を塗装するのが一般的ですが、かつては塗膜が弱く揮発性の強いラッカーを塗っていました。ラッカーはその表面が不均一に波打つ表情や、独特の経年変化に魅力があります。今ではラッカー塗装を行えるところはほとんどありませんが、オリジナルが持っていた魅力を可能な限り保つため、僕たちはこうしたことにも取り組んでいます。環境変化の中で、古い車をレストアできるエンジニアも減ってきているので、僕たちが引き継いでいかないといけないなと思っています」

会話しながらも、彼らの作業の手が休まることはない。エンジンバルブの圧縮漏れを防ぐために、バルブ一本一本にコンパウンドを塗布しながら少しずつ摺り合わせていく。目に見えない極小の隙間を埋める、繊細かつ手間のかかる作業だが、こうしたわずかな部分の精度を限界まで高めていくことで、車が息を吹き返し、その輝きを取り戻していく。
ただ古いから、稀少だから大切に保存しようというだけではない。良く作られたものを、良い状態にして、今この時代に必要なものとして蘇らせたい。
「『古い車は壊れやすい』というイメージがあると思いますが、本当に良い車を細部まできちんとレストアしさえすれば、10年、20年でも、ほとんど手がかからずしっかり走ってくれます。ぜひ毎日、使ってもらいたいですね」

内藤オート
Official Instagram: @naitoengineering
文:井出幸亮
写真:深水敬介








